8.Hypnos


◆ 2003年「眠りの翼・HYPNOS(ヒュプノス)」3D・H19cm×W32cm×D110cm
 
【 Parallel world 】
 
「ヒュプノス」は、ギリシャ神話の、眠りの神である。
翼が、肩から生えた姿でも描かれるが、彫刻では、頭に翼がある。
父は、闇(あの世)「エレボス」で、母は、夜「ニュクス」だ。
兄は、死「タナトス」で、弟は、夢「オネイロス」である。
 
古代人は、眠りを、死の近似値として解釈していたのだろう。
地下の冥界(あの世)の闇と、夜の闇も、同一視されていた。
「あの世」は、並行世界に通じ、それを垣間見るのが、夢である。
 
20世紀になって、ようやく、夢は臨床心理学の研究対象になった。
フロイトによって、無意識や、深層心理という概念が一般化する。
顕在意識は、海に喩えるなら、光が届く程度の表層面に過ぎない。
透明な水でも、水面から80m潜ると、もう光は届かない、闇になる。
 
フロイトは、深層心理を、抑圧された本能的な心理欲求だと解釈した。
それに対して、ユングは「集合的無意識」という、新たな仮説を立てた。
それは、個人の経験記憶ではなく、異世界のデータバンクの共有である。
つまり、自分が体験していない、他者の経験記憶を、シェアするのだ。
 
眠りの翼は、異世界への飛躍の翼である。
自分の躯(端末)から離れ、どこへ飛んでいくのか?
雲(クラウド)の上か? それはわからない。