9.Fujin Raijin


◆ 2006年「雷神Ⅱ」・30P / 「風神Ⅱ」・30P
 
【 The Wind and Thunder Gods 】
 
風神雷神と言えば、俵屋宗達の「 風神図雷神図屏風 」が有名だ。
自然現象の風と雷を、偶像化した起源を、どこまで遡ることが出来るのか?
 
そもそも、宗達の風神雷神は、日本の神話の神様ではなく、外来種の神様だ。
「古事記」や「日本書紀」に記された風の神は、シナツヒコだとされている。
雷の神は、黄泉の国でイザナミの躯に集った八匹の邪鬼として描かれている。
 
外来種の雷神「ヴァルナ」と、風神「ヴァーユ」は、インドのバラモン教の神だ。
宗達が風神雷神を描いた17世紀以前に、仏教と共に中国から伝来したのだろう。
千手観音の従者、二十八部衆との戦いに敗れた風神雷神は、仏教に帰依した。
三十三間堂には、13世紀の観音二十八部衆と 風神雷神 の、30体尊像がある。
 
【 風神・The Wind God 】
 
先ずは、宗達が描いた風神について考える。
青鬼のような姿で、頭の中央から一本の角が生えている。
風の神である風神は「風袋」と呼ばれるアーチ状の白い布を持ち、空中を駆ける。
シルクロード、ガンダーラに、風袋を持つ、ゾロアスター教の風神像がある。
風神「 ヴァドー 」像の浮彫で、クシャーン朝時代(2-3世紀)ころに彫られた。
ヴァドーの風袋を見ると、筒状ではなく、平面の布が風を孕んで膨らんでいる。
風袋が空を飛ぶ道具だとすれば、パラグライダーの翼「キャノピー」と同じだ。
キャノピーを、動物の器官に喩えれば、ムササビや、コウモリの翼に似ている。
コウモリのような翼で飛び、頭に一本の角が生えた、皮膚が青緑色の生物とは?
条件を当て嵌めていくと、古生代に生息していた、翼竜類としか考えられない。
化石が発見されている翼竜の例として「 ケツァルコアトルス 」を挙げる。
 
【 雷神・The Thunder God 】
 
次に、宗達が描いた雷神ついて考える。
肌の色は白く、長髪に髭、二本の鹿の角を、鉢巻きで、頭に縛り付けている。
雷の神である雷神は、雷鳴を太鼓の音に喩えて「太鼓」と「撥」を持っている。
姿かたちは、秋田県の「なまはげ」に似ている(能登の御陣乗太鼓にも似ている)。
「なまはげ」の源流を辿ると、イヌイットを経て、ケルトの「 シャーマン 」に遡る。
古代北方のシャーマン(霊能者)には、太鼓を打ち鳴らし、雷を呼ぶ力がある。
シャーマンは人間だから、作り物の角が付いた冠を被り、衣装を纏っている。
マスクで顔(正体)を隠したり、憑依霊の仮面(ペルソナ)も被ったであろう。
ギリシャ神話の「 ゼウス 」は「いかずち(雷)」の神、稲妻の槍を地上に投げつける。
「いかずち」という言葉は、「いか」は「厳めしい」「荒ぶる」という意味である。
「ず」は「つ」で助詞、「ち」は「水霊(みずち)」「大蛇(おろち)」の意味である。
従って、「雷(いかずち)」の語源は「厳つ霊」と書き、荒ぶる神(竜)になる。
 
こうしてみると、以上の二つの神の特徴を併せ持つのが、龍ではないだろうか?
日本の神話には、風神も雷神も必要なく、気象を司る神は、龍なのだ。