12.Slumber


◆ 2013年「Slumber」・20F
 
The Pillow Book

『春はあけぼの
やうやう白くなりゆく山ぎは
少し明りて紫だちたる雲の細くたなびきたる』
枕草子 / 清少納言

本を読みながら眠りに落ちる。
まどろみが、夢へと誘い込む。

11.Year of the Phoenix


◆ 2010年「歳鳳図」・25F
 
Archaeopteryx
 
魚や爬虫類が、長い年月を生きて、神性を宿すと、蛟(みずち)になる。
蛟は、やがて龍になり、翼を持つと「 応龍(應龍) 」になる。
応龍から、鳳凰が生まれる。鳳凰は、全ての鳥類の始祖になる。
 
現代の科学では、龍も鳳凰も、実在しない想像上の生き物だと考える。
しかし、中世以前には、そうは考えない、そもそも科学が無い。
古代中国には、ダーウィンの進化論など無い、生物学も無い。
なので、古代人は、物事を、直感的に判断して、神話に記した。
 
人間は、宇宙の一部であり、宇宙と同質であり、宇宙と相似形である。
ならば、人間は、宇宙の「 構造 」を、直観的に知るはずだ。
直観と科学は、乖離し、符合し、やがては一致するのかも知れない。
 
現在の古生物学研究は、急速に進歩している。
水生恐竜に対して、陸生恐竜 の認識は、大きく変わりつつある。

10.Dream


◆ 2009年「幻夢」・30F
 
tapir
 
この作品「幻夢」を描いた2009年ころまで、私はある誤解をしていた。
日本には『獏(ばく)が、悪い夢を食べてくれる』という伝説がある。
私は、それを、古代中国から伝えられた、定説だと思い込んでいた。
 
結論から言うと、獏は夢を食べない。
 
「獏」は、古代中国の想像上の動物で、縁起のいい霊獣である。
後に、実在の動物に「ばく」の名が付けられた。 「 マレーバク 」である。
獏の毛皮を、敷物や寝具にして、それで休むと、病気を避けられるそうだ。
獏は、古くから、悪い気を祓ったり、魔除けの象徴になっていたらしい。
 
ならば「夢を食べる」説は、いつどこで生まれたのだろう?
 
獏と同様に、「 パンダ 」も、昔は、幻の珍獣「UMA」であった。
竹を食べるパンダ は、硬い物を食べることから、鉄や銅も食べるとされた。
金属を食べるなら、戦争に使う “武器” も食べてしまうはずだと考えられた。
戦争兵器が無くなれば、戦争もできなくなり、平和な世の中になる。
戦争が始まるかも知れない不安も、一種の悪夢だと言えるだろう。
不安から解放されることによって、安眠が得られるのだ。
 
パンダと、マレーバクは、白黒の毛皮の模様がよく似ている。
つまり、これらの毛皮と伝説が、混同されて、結合された可能性が高い。
 
Nightmare
 
人類にとっての悪夢とは何だろう?
そんなことを、漠然と考えながら「幻夢」を描いていた。
夢の形は、雲のように、湧き上がり、立ちのぼっていく。
 
お寺の門に、魔除けの飾りとして「 獅子と獏の彫刻 」が彫られている。
「獅子」は、自らの力を誇示し、敵を威嚇して、怯えさせ、争いを抑止する。
「獏」は、自ら進んで争いを放棄し、お互いの武器を食べてしまうのだろう。
 
現実のバクは、夢を食べないしパンダも笹しか食べない
人類は、現実世界の中で生きている。
しかし、人は、心の内に、もう一つの世界「無意識世界」を持っている。
そして、夢の中では、現実世界と、無意識世界が、入れ替わる。
だから、自分の心の内に、「 自分の獏 」を棲まわせよう。
 
夢は夢。目覚めればいつか消えてしまう。
 
忘れていた悪夢が、また蘇る。
 
ゆめ、これ、ありやなしや。

9.Fujin Raijin


◆ 2006年「雷神Ⅱ」・30P / 「風神Ⅱ」・30P
 
【 The Wind and Thunder Gods 】
 
風神雷神と言えば、俵屋宗達の「 風神図雷神図屏風 」が有名だ。
自然現象の風と雷を、偶像化した起源を、どこまで遡ることが出来るのか?
 
そもそも、宗達の風神雷神は、日本の神話の神様ではなく、外来種の神様だ。
「古事記」や「日本書紀」に記された風の神は、シナツヒコだとされている。
雷の神は、黄泉の国でイザナミの躯に集った八匹の邪鬼として描かれている。
 
外来種の雷神「ヴァルナ」と、風神「ヴァーユ」は、インドのバラモン教の神だ。
宗達が風神雷神を描いた17世紀以前に、仏教と共に中国から伝来したのだろう。
千手観音の従者、二十八部衆との戦いに敗れた風神雷神は、仏教に帰依した。
三十三間堂には、13世紀の観音二十八部衆と 風神雷神 の、30体尊像がある。
 
【 風神・The Wind God 】
 
先ずは、宗達が描いた風神について考える。
青鬼のような姿で、頭の中央から一本の角が生えている。
風の神である風神は「風袋」と呼ばれるアーチ状の白い布を持ち、空中を駆ける。
シルクロード、ガンダーラに、風袋を持つ、ゾロアスター教の風神像がある。
風神「 ヴァドー 」像の浮彫で、クシャーン朝時代(2-3世紀)ころに彫られた。
ヴァドーの風袋を見ると、筒状ではなく、平面の布が風を孕んで膨らんでいる。
風袋が空を飛ぶ道具だとすれば、パラグライダーの翼「キャノピー」と同じだ。
キャノピーを、動物の器官に喩えれば、ムササビや、コウモリの翼に似ている。
コウモリのような翼で飛び、頭に一本の角が生えた、皮膚が青緑色の生物とは?
条件を当て嵌めていくと、古生代に生息していた、翼竜類としか考えられない。
化石が発見されている翼竜の例として「 ケツァルコアトルス 」を挙げる。
 
【 雷神・The Thunder God 】
 
次に、宗達が描いた雷神ついて考える。
肌の色は白く、長髪に髭、二本の鹿の角を、鉢巻きで、頭に縛り付けている。
雷の神である雷神は、雷鳴を太鼓の音に喩えて「太鼓」と「撥」を持っている。
姿かたちは、秋田県の「なまはげ」に似ている(能登の御陣乗太鼓にも似ている)。
「なまはげ」の源流を辿ると、イヌイットを経て、ケルトの「 シャーマン 」に遡る。
古代北方のシャーマン(霊能者)には、太鼓を打ち鳴らし、雷を呼ぶ力がある。
シャーマンは人間だから、作り物の角が付いた冠を被り、衣装を纏っている。
マスクで顔(正体)を隠したり、憑依霊の仮面(ペルソナ)も被ったであろう。
ギリシャ神話の「 ゼウス 」は「いかずち(雷)」の神、稲妻の槍を地上に投げつける。
「いかずち」という言葉は、「いか」は「厳めしい」「荒ぶる」という意味である。
「ず」は「つ」で助詞、「ち」は「水霊(みずち)」「大蛇(おろち)」の意味である。
従って、「雷(いかずち)」の語源は「厳つ霊」と書き、荒ぶる神(竜)になる。
 
こうしてみると、以上の二つの神の特徴を併せ持つのが、龍ではないだろうか?
日本の神話には、風神も雷神も必要なく、気象を司る神は、龍なのだ。

8.Hypnos


◆ 2003年「眠りの翼・HYPNOS(ヒュプノス)」3D・H19cm×W32cm×D110cm
 
【 Parallel world 】
 
「ヒュプノス」は、ギリシャ神話の、眠りの神である。
翼が、肩から生えた姿でも描かれるが、彫刻では、頭に翼がある。
父は、闇(あの世)「エレボス」で、母は、夜「ニュクス」だ。
兄は、死「タナトス」で、弟は、夢「オネイロス」である。
 
古代人は、眠りを、死の近似値として解釈していたのだろう。
地下の冥界(あの世)の闇と、夜の闇も、同一視されていた。
「あの世」は、並行世界に通じ、それを垣間見るのが、夢である。
 
20世紀になって、ようやく、夢は臨床心理学の研究対象になった。
フロイトによって、無意識や、深層心理という概念が一般化する。
顕在意識は、海に喩えるなら、光が届く程度の表層面に過ぎない。
透明な水でも、水面から80m潜ると、もう光は届かない、闇になる。
 
フロイトは、深層心理を、抑圧された本能的な心理欲求だと解釈した。
それに対して、ユングは「集合的無意識」という、新たな仮説を立てた。
それは、個人の経験記憶ではなく、異世界のデータバンクの共有である。
つまり、自分が体験していない、他者の経験記憶を、シェアするのだ。
 
眠りの翼は、異世界への飛躍の翼である。
自分の躯(端末)から離れ、どこへ飛んでいくのか?
雲(クラウド)の上か? それはわからない。

7.Medusa


◆ 2001年 「メドゥーサ」3D・H20cm×W23.5cm×D11.5cm
 
【 Mythology 】
 
日本の神話では、スサノオが、八岐大蛇(ヤマタノオロチ)を退治する。
ヤシオリの酒を飲ませて、眠らせて、首を切り落とす(ヤシオリ作戦)。
その後。八岐大蛇の尻尾の中から、三種の神器の「草薙剣」が出てくる。
 
ギリシャ神話では、ペルセウスが、魔物「蛇女ゴルゴン」を退治する。
ペルセウスは、切り落としたゴルゴンの首で、怪物クラーケンを退治する。
怪物クラーケンは、海からの災害「大津波」の比喩だとされている。
 
蛇女ゴルゴンも、八岐大蛇も、彗星大接近の比喩だとされる説がある。
首を切り落とすのは、彗星の分裂であり、尻尾は、隕石の落下の比喩である。
隕石は、隕鉄をもたらし、草薙剣は、鉄器文化の始まりを象徴している。
 
同一視されるゴルゴンとメドゥーサだが、元々は別々の魔女と女神である。
メドゥーサさは、ギリシャ文明に侵略される前の、土着信仰の女神であった。
豊穣の女神であったメドゥーサは、ギリシャ神話のデメテルに置き換えれる。
侵略された地域で信仰されていた神話は改竄され、神は魔物に変えられる。
 
日本の神道では「アマテラス」が、大地の豊穣の女神とされている。
大地の豊穣を司る女神は、地母神(国生みの神)「イザナミ」が祖である。
地母神は、太母神(太母)であり、女系(母系)の女神が受け継いでいく。
ギリシャ神話の地母神(大地)は「ガイア」であり、グレートマザーだ。
 
グレートマザー(地母神)の典型例は、ケルト神話の「ダヌ」である。
生命の源であり、火、竈、命、歌の生みの神であり、神々の元祖である。
母なる神は、豊穣の女神、戦いと破壊の女神の、両方の性格で定義される。
生命を産み、奪う性質が日本神話のイザナミと同様、一般的な要件となる。
 
メドゥーサの目には魔力があり、見てしまった者は、石に変えられる。
切り落とされた首から滴り落ちた血を、ペルセウスは二つの瓶に集める。
右側の血管から流れて右の瓶に入った血には、死者を蘇らせる力がある。
左側の血管から流れて左の瓶に入った血には、人体を破壊する力がある。
ラテン語の「sinister(左)」には、「悪魔的・魔女的」の意味がある。
そして「dexter(右)」には、「手先が器用な・利口な」の意味がある。
 
アンドロメダ姫とアマテラスは似ている。
ペルセウスとスサノオも、メドゥーサとツクヨミも、よく当て嵌まる。
アンドロメダは、人間ではなく、元々は女神の名であったと考えられる。
 
神話では、イザナギの左目から、アマテラスが生まれたとされている。
右目から、ツクヨミが、鼻からは、スサノオが生まれたとされている。
アマテラスとツクヨミは、左と右の目であり、太陽と月の意味がある。
天空で、太陽と月が重なると、皆既日蝕になり「天の岩戸」になる。
 

◆ 1999年「窟戸」・608mm×1165mm

6.Seventeen Stars


◆ 1999年 「十七星」・608mm×1165mm
 
【 legend 】
 
「天に九星の極あり、地に八極の星あり」
古代中国占術では、九星と八卦を合わせた十七の極星を、絶対的な数と見做した。
 
聖徳太子の「十七条憲法」が制定された西暦604年を、六年遡る、西暦598年。
越後の国で、世にも稀なる巨大な白鹿が捕獲され、天皇に献上された。
鹿の体高は五尺八寸(176cm)もあり、全身が純白の毛に覆われていた。
当時の日本では、白鹿は、麒麟と同格の神獣で、神の使いであると考えられた。
その鹿を見た聖徳太子は、角の先端が十七に枝分かれしていることに気づく。
鹿の角には、十七の文字が書かれていた(模様が文字に読み取れたと推測する)。
「琴・斗・月・台・鏡・竹・冠・契・龍・花・日・車・地・天・水・籠・鼎」の十七文字。
これらを心魂として「日本国推古憲法」十七条の条文が導き出されたと伝えられる。
 
十七という数は、摩訶不思議な数である。
数学的には、素数である。「17番目の不思議」と呼ばれる不思議な計算がある。
物理学的には、素粒子(全ての物質を構成する最小単位)の種類が十七である。
生物学的には、十七年蝉(素数蝉)が大量羽化する間隔の年数である。
文学的には、俳句が、五・七・五の十七音である・・・

5.Great Mother


◆ 1997年 「太母」・60F
 
【 Gaia / Tiamat 】

心理学者のC.G.ユングは、人類に共通する集合的無意識「原型論」を説いた。
深層心理に潜む原型(アーキタイプ)の一つが 「 太母(グレートマザー) 」だ。
母性は、生命を生み、育てる力、大地の女神「 ガイア(Gaia) 」である。
しかし、母の愛は、我が子を呑み込もうとする竜(ドラゴン)へと変容する。
太母神は、原始の海の女神「 ティアマト(Tiamat) 」とも同一視される。

4.THE PEARL


◆ 1997年 「THE PEARL」・80F
 
【 内なる海 】
 
人間は、體の中に海を持つ、心の中に竜が棲む。
 
海は、母性に喩えられ、「母なる海」と呼ばれる。
太母神は、竜に喩えられ、海の底には竜宮がある。
 
脳の奥、太古の海には「 海馬 」と呼ばれる竜が棲む。
海馬は記憶を呑み込み、深い海の底に沈めてしまう。
 
生まれる前の記憶、母なる海の、竜宮に眠る記憶。
深い深い海の底に、思い出せない夢が沈んでいる。

3.Lycaon


◆ 1992年 「リカオン」3D・H22.5cm×W15.5cm×D24cm
 
【 Endangered species 】
 
リカオン は、アフリカのサバンナに生息するイヌ科の哺乳類である。
高度な群れ行動で狩りをするのが特徴で、仲間の結束は固い。
 
作品は、乾漆と実物の頭蓋骨で出来ている。
リカオンは絶滅危惧種だ、作品にはコヨーテの頭蓋骨を使用している。
 
Lycaonはラテン語で、ギリシャ語ではlukáōn(λυκάων)である。
lukáōnは、lúkos「狼」に、指小辞-ōnを接続して、「小狼」の意味になる。
ギリシャ神話で、狼に姿を変えられたアルカディアの王の名に由来する。