17.Capricorn


◆ 2017年「カプリコーン」・60P

L'Après-midi d'un faune

カプリコーンとは、黄道十二星座の山羊座の名称である。
古代、山羊座は、黄道十二宮の磨羯宮に位置した。
磨羯とは、インド神話に登場する怪魚マカラのことである。
山羊であり、怪魚であるカプリコーンの姿については、諸説ある。
その中の一説が、ギリシャ神話の牧羊神パーン(アイギパーン)が、魚に変身する途中の姿だとする説だ。

まどろむ牧羊神は、どんな夢を見ていたのだろう?

16.Unicorn

 

◆ 2013年「貴婦人と麒麟」・10F

La Belle et la Bête

麒麟(Qílín)は、古代中国に伝わる霊獣である。
頭に一本の角がある、鹿のような、馬のような、龍のような獣だ。
似たような霊獣がヨーロッパにもいる、ユニコーンだ。
やはり、頭に一本の角があり、白い山羊のような馬のような獣だ。


◆ 2014年「麒麟と乙女」・25F

La Dame à la licorne

不思議なことに、ユニコーンは乙女に思いを寄せているという。
ユニコーンが角に触れることを許すのは、処女だけなのだ。
白馬のようなユニコーンは、白馬の騎士の比喩のように感じる。
貴婦人を守るために、命を懸けて一騎打ちの決闘をする騎士だ。

麒麟は、為政者が善い政治をして、世の中が平和な時に姿を現す。
麒麟は殺生をしない。
虫や草花を踏まないために、足を地面に着けず、宙を飛ぶ。
麒麟の角は、先が丸く、柔らかな皮を被っている
しかし、麒麟を攻撃して倒すことはできない。
麒麟の防衛力は、全ての生物の中で最強なのである。

15.Swirling feelings



◆ 2013年「想い渦巻く」・10F

【 Spiral 】

想いは広がり、駆け巡り、再び集まり、また広がり…
現れて、消えて、同じだけれど、同じではない。
深まり、高まり、いつまでも、どこまでも、繰り返す。

14.Siesta



◆ 2013年「Siesta2」・15F

【 Fall asleep 】

眠るのは夜だけとは限らない。
夏の強い日差しを避けて、生き物たちは木陰に隠れて眠る。

ハンモックに揺られ、読みかけの本を手にしたまま・・・

 寝落ちする。

それは、とても気持ちのいいことなのだ。
本来、眠っている状態が、生き物の在るべき状態なのだ。
何もしなくても、それでも生きてい行けるのならば。
しかし、そういうわけにも行かない。
だから、起きて、活動しなければならない。
それが、生きるということだ。

◆ 2013年「Siesta1」・15F

13.Kiss


◆ 2013年「KISS」3D・H20.5cm×W15cm×D14.5cm

Sleeping Beauty

英語「Sleeping Beauty」ドイツ語「Dornröschen」
フランス語「La Belle au bois dormant」
日本語「眠り姫」「茨姫」「眠りの森の美女」

お伽噺で王女は、魔女の呪いで、100年間も眠り続ける。
100年後、王子の KISS で呪いが解け、王女は目覚める。

眠っている間、どんな夢を見ていたのだろうか?

科学的に考えると、その眠りは、普通の睡眠では無い。
仮死状態の冬眠「コールドスリープ (Cold sleep)」である。
この場合、脳の活動は、極度に低下、あるいは停止している。
従って、冬眠中には、夢を見る可能性は、極めて低い。
しかし、覚醒の過程では、夢を見る可能性がある。
臨死体験では、死後の世界をイメージした夢の報告がある。

白い肌、赤い唇。死と蘇生。白雪姫にも類似している。

12.Slumber


◆ 2013年「Slumber」・20F
 
The Pillow Book

『春はあけぼの
やうやう白くなりゆく山ぎは
少し明りて紫だちたる雲の細くたなびきたる』
枕草子 / 清少納言

本を読みながら眠りに落ちる。
まどろみが、夢へと誘い込む。

11.Year of the Phoenix


◆ 2010年「歳鳳図」・25F
 
Archaeopteryx
 
魚や爬虫類が、長い年月を生きて、神性を宿すと、蛟(みずち)になる。
蛟は、やがて龍になり、翼を持つと「 応龍(應龍) 」になる。
応龍から、鳳凰が生まれる。鳳凰は、全ての鳥類の始祖になる。
 
現代の科学では、龍も鳳凰も、実在しない想像上の生き物だと考える。
しかし、中世以前には、そうは考えない、そもそも科学が無い。
古代中国には、ダーウィンの進化論など無い、生物学も無い。
なので、古代人は、物事を、直感的に判断して、神話に記した。
 
人間は、宇宙の一部であり、宇宙と同質であり、宇宙と相似形である。
ならば、人間は、宇宙の「 構造 」を、直観的に知るはずだ。
直観と科学は、乖離し、符合し、やがては一致するのかも知れない。
 
現在の古生物学研究は、急速に進歩している。
水生恐竜に対して、陸生恐竜 の認識は、大きく変わりつつある。

10.Dream


◆ 2009年「幻夢」・30F
 
tapir
 
この作品「幻夢」を描いた2009年ころまで、私はある誤解をしていた。
日本には『獏(ばく)が、悪い夢を食べてくれる』という伝説がある。
私は、それを、古代中国から伝えられた、定説だと思い込んでいた。
 
結論から言うと、獏は夢を食べない。
 
「獏」は、古代中国の想像上の動物で、縁起のいい霊獣である。
後に、実在の動物に「ばく」の名が付けられた。 「 マレーバク 」である。
獏の毛皮を、敷物や寝具にして、それで休むと、病気を避けられるそうだ。
獏は、古くから、悪い気を祓ったり、魔除けの象徴になっていたらしい。
 
ならば「夢を食べる」説は、いつどこで生まれたのだろう?
 
獏と同様に、「 パンダ 」も、昔は、幻の珍獣「UMA」であった。
竹を食べるパンダ は、硬い物を食べることから、鉄や銅も食べるとされた。
金属を食べるなら、戦争に使う “武器” も食べてしまうはずだと考えられた。
戦争兵器が無くなれば、戦争もできなくなり、平和な世の中になる。
戦争が始まるかも知れない不安も、一種の悪夢だと言えるだろう。
不安から解放されることによって、安眠が得られるのだ。
 
パンダと、マレーバクは、白黒の毛皮の模様がよく似ている。
つまり、これらの毛皮と伝説が、混同されて、結合された可能性が高い。
 
Nightmare
 
人類にとっての悪夢とは何だろう?
そんなことを、漠然と考えながら「幻夢」を描いていた。
夢の形は、雲のように、湧き上がり、立ちのぼっていく。
 
お寺の門に、魔除けの飾りとして「 獅子と獏の彫刻 」が彫られている。
「獅子」は、自らの力を誇示し、敵を威嚇して、怯えさせ、争いを抑止する。
「獏」は、自ら進んで争いを放棄し、お互いの武器を食べてしまうのだろう。
 
現実のバクは、夢を食べないしパンダも笹しか食べない
人類は、現実世界の中で生きている。
しかし、人は、心の内に、もう一つの世界「無意識世界」を持っている。
そして、夢の中では、現実世界と、無意識世界が、入れ替わる。
だから、自分の心の内に、「 自分の獏 」を棲まわせよう。
 
夢は夢。目覚めればいつか消えてしまう。
 
忘れていた悪夢が、また蘇る。
 
ゆめ、これ、ありやなしや。

9.Fujin Raijin


◆ 2006年「雷神Ⅱ」・30P / 「風神Ⅱ」・30P
 
【 The Wind and Thunder Gods 】
 
風神雷神と言えば、俵屋宗達の「 風神図雷神図屏風 」が有名だ。
自然現象の風と雷を、偶像化した起源を、どこまで遡ることが出来るのか?
 
そもそも、宗達の風神雷神は、日本の神話の神様ではなく、外来種の神様だ。
「古事記」や「日本書紀」に記された風の神は、シナツヒコだとされている。
雷の神は、黄泉の国でイザナミの躯に集った八匹の邪鬼として描かれている。
 
外来種の雷神「ヴァルナ」と、風神「ヴァーユ」は、インドのバラモン教の神だ。
宗達が風神雷神を描いた17世紀以前に、仏教と共に中国から伝来したのだろう。
千手観音の従者、二十八部衆との戦いに敗れた風神雷神は、仏教に帰依した。
三十三間堂には、13世紀の観音二十八部衆と 風神雷神 の、30体尊像がある。
 
【 風神・The Wind God 】
 
先ずは、宗達が描いた風神について考える。
青鬼のような姿で、頭の中央から一本の角が生えている。
風の神である風神は「風袋」と呼ばれるアーチ状の白い布を持ち、空中を駆ける。
シルクロード、ガンダーラに、風袋を持つ、ゾロアスター教の風神像がある。
風神「 ヴァドー 」像の浮彫で、クシャーン朝時代(2-3世紀)ころに彫られた。
ヴァドーの風袋を見ると、筒状ではなく、平面の布が風を孕んで膨らんでいる。
風袋が空を飛ぶ道具だとすれば、パラグライダーの翼「キャノピー」と同じだ。
キャノピーを、動物の器官に喩えれば、ムササビや、コウモリの翼に似ている。
コウモリのような翼で飛び、頭に一本の角が生えた、皮膚が青緑色の生物とは?
条件を当て嵌めていくと、古生代に生息していた、翼竜類としか考えられない。
化石が発見されている翼竜の例として「 ケツァルコアトルス 」を挙げる。
 
【 雷神・The Thunder God 】
 
次に、宗達が描いた雷神ついて考える。
肌の色は白く、長髪に髭、二本の鹿の角を、鉢巻きで、頭に縛り付けている。
雷の神である雷神は、雷鳴を太鼓の音に喩えて「太鼓」と「撥」を持っている。
姿かたちは、秋田県の「なまはげ」に似ている(能登の御陣乗太鼓にも似ている)。
「なまはげ」の源流を辿ると、イヌイットを経て、ケルトの「 シャーマン 」に遡る。
古代北方のシャーマン(霊能者)には、太鼓を打ち鳴らし、雷を呼ぶ力がある。
シャーマンは人間だから、作り物の角が付いた冠を被り、衣装を纏っている。
マスクで顔(正体)を隠したり、憑依霊の仮面(ペルソナ)も被ったであろう。
ギリシャ神話の「 ゼウス 」は「いかずち(雷)」の神、稲妻の槍を地上に投げつける。
「いかずち」という言葉は、「いか」は「厳めしい」「荒ぶる」という意味である。
「ず」は「つ」で助詞、「ち」は「水霊(みずち)」「大蛇(おろち)」の意味である。
従って、「雷(いかずち)」の語源は「厳つ霊」と書き、荒ぶる神(竜)になる。
 
こうしてみると、以上の二つの神の特徴を併せ持つのが、龍ではないだろうか?
日本の神話には、風神も雷神も必要なく、気象を司る神は、龍なのだ。

8.Hypnos


◆ 2003年「眠りの翼・HYPNOS(ヒュプノス)」3D・H19cm×W32cm×D110cm
 
【 Parallel world 】
 
「ヒュプノス」は、ギリシャ神話の、眠りの神である。
翼が、肩から生えた姿でも描かれるが、彫刻では、頭に翼がある。
父は、闇(あの世)「エレボス」で、母は、夜「ニュクス」だ。
兄は、死「タナトス」で、弟は、夢「オネイロス」である。
 
古代人は、眠りを、死の近似値として解釈していたのだろう。
地下の冥界(あの世)の闇と、夜の闇も、同一視されていた。
「あの世」は、並行世界に通じ、それを垣間見るのが、夢である。
 
20世紀になって、ようやく、夢は臨床心理学の研究対象になった。
フロイトによって、無意識や、深層心理という概念が一般化する。
顕在意識は、海に喩えるなら、光が届く程度の表層面に過ぎない。
透明な水でも、水面から80m潜ると、もう光は届かない、闇になる。
 
フロイトは、深層心理を、抑圧された本能的な心理欲求だと解釈した。
それに対して、ユングは「集合的無意識」という、新たな仮説を立てた。
それは、個人の経験記憶ではなく、異世界のデータバンクの共有である。
つまり、自分が体験していない、他者の経験記憶を、シェアするのだ。
 
眠りの翼は、異世界への飛躍の翼である。
自分の躯(端末)から離れ、どこへ飛んでいくのか?
雲(クラウド)の上か? それはわからない。